2006年12月28日

(第16話) 痴呆を患った高齢者の臨終を考える④

心医者徒然談義 「もの忘れ外来」のこと(第16話)
痴呆症への対応:痴呆を患った高齢者の臨終を考える④
東北ジャーナル メディカルチェック

・・・高齢社会は、「死」への心構えを否応なしに迫られる社会でもあります。避け得ない「死」を目前にしたとき、私たちは一体何ができるのでしょうか。・・・

 高齢社会は、「死」への心構えを否応なしに迫られる社会でもあります。避け得ない「死」を目前にしたとき、私たちには一体何かできるのでしょうか。医者の立場からごく割り切れば、つぎの3つに整理できます。①治療に手を尽くす(積極的延命治療)、②治療を手控える(消極的安楽死)、③薬などで楽に死なせる(積極的安楽死)。それぞれに本人の意思の有無(自発的か非自発的か)を区別します。

 すい臓がんの告知を受けないまま111日間の闘病生活を送られた昭和天皇(1988)は、非自発的な積極的延命治療の例です。肝臓がんの告知を受けていた元米国駐日大使のライシャワー博士は、臨終に際して家族や友人を集めて別れを告げ、医師に命じて点滴など一切の延命装置を外させました(1990)。

 これは自発的な消極的(…)安楽死の例です。本人が誰かに頼んで楽に死なせてもらう場合は、自発的な積極的(…)安楽死ですが、これは自殺ほう助ともなりかねません。有名なのはアメリカでドクター・デス(死神博士)の異名をもつジャック・キヴォーキアン医師です。

 彼は自分で致死薬を注射できる自殺補助装置を開発し、1990年、54歳になるアルツハイマー病の女性に始めて使用しました。以来、120人以上の患者が彼のもとで自殺し、数度にわたって逮捕、告訴、医師免許も剥奪されましたが、患者の死ぬ権利が争われた結果、いずれも無罪評決を受けています。しかし98年には安楽死を望む神経難病の患者にキヴオーキアン医師が自ら薬物を注射し、そのビデオをCBSテレビ「60ミニッツ」で全米に放映したため議論を巻き起こしました。

 結局、彼は殺人罪でついに投獄されています。こうした積極的安楽死を、日本の法律はどのように裁いているでしょうか。森鴎外の「高瀬舟」(1916)は、安楽死を扱った小説として有名です。病気で働けなくなった弟が、兄に迷惑をかけまいとして喉笛を剃刀で切って自殺を図ります。死に切れず血まみれになって苦しんでいるところに兄が帰宅し、慌てて医者を呼びに行こうとすると、弟は苦しいから剃刀を早く引き抜いてくれと懇願します。兄は逆らえず、結局、弟殺しの罪で遠島に処せられ、高瀬川を舟で下っていきます。

 1961年に愛知県で起こった嘱託殺人事件は、この作品のテーマを蘇らせるものでした。農業を営む24歳の青年が、父親の余命があと一週間と告げられ、農薬を牛乳に混ぜて飲ませたのです。父親は事件の2年前から脳溢血で半身不随となり、激痛と絶望から「殺して欲しい」と懇願するようになっていました。

 この事件を受けて、名古屋高裁は積極的安楽死の六要件を提示します(1962)。①不治かつ末期、②見るに忍びない苦痛、③死苦の緩和が目的、④本人の依頼か承諾、⑤医師の手による、⑥倫理的に妥当な方法。本件は⑤と⑥に問題があるとされ、安楽死とは認定されませんでした。

 名古屋高裁の安楽死六要件は、わが国のその後の安楽死論争に一定の指針を示すことになりました。判決の翌年には、雑誌「思想の科学」(8月号)に「安楽死の新しい解釈とその立法化」という論文が掲載されています。著者は後に日本安楽死協会(現在の日本尊厳死協会)を創設する太田典礼です。

 産婦人科医でもあった彼は、避妊具の太田リングでも有名ですが、優生保護法の立法化に関わるなど、明確な優生思想の持ち主でした。論文では本人の意思によらない非自発的(‥‥)な積極的安楽死をも認めるべきであると主張しています。



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Posted by 清山会スタッフ at 21:13│Comments(0)痴呆症への対応
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