2006年12月28日

(第12話) 介護者の心理②

心医者徒然談義 「もの忘れ外来」のこと(第12話)
痴呆症への対応:介護者の心理②
東北ジャーナル メディカルチェック

・・・今回は、さらに「3.取引き」「4.抑うつ」「5.受容」という心理について考えてみます。・・・

 前回は、介護という現実を受け容れていく過程には「1.否認」や「2.怒り」という心理が現れることを指摘しました。今回はさらに「3.取り引き」「4.抑うつ」「5.受容」という心理について考えてみます。

 3.取り引き、がんを患った人が「否認」や「怒り」の段階を経ていよいよ自分の運命を認めざるを得なくなると、その現実を認めるかわりに、せめて子供の結婚式にでたい、できれば孫の顔もみたい、そのためなら死を然した大手術であれ、法外に高価な怪しい壷の借金であれ、どんな試練にも耐えてみせる、というような気負いがでます。いわば、受容の見返りとして延命を求める悲壮な「取り引き」です。

 介護という現実を受け容れるときにも、同じような気負いがでて、とても続けられそうにない努力をしてしまう場合があります。たとえば、「自分が何とかしよう」という気負いのもとに、介護が必要になった親を引き取る子供(通常は娘)がいます。仕事を止め、夫や子にも気を遣い、ようやくひと部屋を確保していざ同居をはじめてみると、兄弟はおろか老親からもさほどの感謝はなく、むしろ介護のつたなさを説教されたり、孝のいたらなさを責められたりして、自分の想いが報われそうもないことに愕然とします。

 介護にともなう中途同居は、気負えば気負うほど、思い通りでない現実に燃えつきてしまうこともあるのです。そうした現実をも受け容れながら、気負わず、頑張らない介護に到達しないと、長続きしません。

 4.抑うつ、婿取りの娘さんで、老親の介護を非常に頑張っていた人が、重いうつ状態になりました。きっかけはご主人のこんな言葉でした。「俺は婿養子に入ったのだから、お前が親の介護をすることに文句はない。しかし、家のことも子育ても、手を抜かないで欲しい。」

介護だけでなく、家事も育児も、というご主人のリクエストは、今さら言われるまでもなく、彼女がずっと自分に課してきたことでした。しかし娘と妻と母親の三役を完璧にこなすことなど、できるはずもありません。結局どれもが不本意で、気持ちにゆとりをなくしていた彼女は、夫の言葉に急所を突かれ、自分の不甲斐なさに自殺を考えるほど落ちこんでしまいました。

 抑うつは、しかし受容にいたる大切なステップでもあります。わたしに家族会への参加を勧められた彼女は、他のご家族のいろいろな体験談を聞くうちに、自分の苦労が、けして特殊なものではないことを知りました。そして、「娘・妻・母親らしさ」よりも「自分らしさ」を大切にすることが、結局は介護を長続きさせるコツでもあることに気づいたと、穏やかに話してくれました。

 5.受容、介護という一筋縄ではいかない体験を通して、どのご家族も、いわば心理的な「死と再生」を繰り返しながら少しずつ成長します。否認から受容へとスムーズに進むわけではなく、ときには逆戻りもありますが、それでも、穏やかな日が必ず(・・・)訪れることを知っていて欲しいと思います。



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Posted by 清山会スタッフ at 12:59│Comments(0)痴呆症への対応
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