介護道楽・ケア三昧

心医者徒然談義　「もの忘れ外来」のこと（第６話）
変性性痴呆（２）アルツハイマー病（つづき）
東北ジャーナル　メディカルチェック

･･･前回は、とくに記憶の障害（アルツハイマー病の第一期）について説明しました。記憶の障害のつぎに起きるのは、言語や行為、認知の障害で･‥

　アルツハイマー病は脳が少しずつ縮んでいく病気で、縮む場所に応じて、記憶や理解力といった目に見えない高等な機能に障がいが起きます。前回は、とくに記憶の障害（アルツハイマー病の第一期）について説明しました。

　記憶の障がいのつぎに起きるのは、言語や行為、認知の障がいです（アルツハイマー病第二期）。

　言語の障害（失語）といっても、発音の障害のことではありません。思いを言葉にする「話す機能」や、人の言うことを理解する「聴く機能」が障害されます。

　話す機能は、左側の脳表面のやや前の方に、聴く機能はやや後ろの方にあります。アルツハイマー病では後ろの方から縮むので、話せるわりに理解力が落ちます。説得して無理に理解させようとしても、余計に混乱させたり、かえって反発を招いたりしがちです。そればかりか「よくしやべるくせに聴く耳をもたない身勝手な人」という誤解を生んで、関係がこじれてしまうこともあります。痴呆の介護では「説得よりも納得」といわれる所以です。

　行為の障害（失行）は、簡単にいうと、行為の順番の障害です。たとえば料理を作る順番、筆筒や冷蔵庫にものをしまう順番、服を着る順番、入浴の順番などがスムーズでなくなります。排泄の順番がおかしくなると、失禁ということになります。

　普段は気にも留めない当たり前のことがスムーズに行えないので、周囲の人はつい「どうしてこんな簡単なことも一人でできないの！」とじれったくなります。しかし、失行のために「着衣」「入浴」「排泄」といった日常行為が苦手になるのは、麻痺のために「歩く」という日常動作が苦手になるのと同じことです。麻痺の人には補助具や車椅子が必要なように、アルツハイマー病で失行がある人にも、障害を補う介護や環境が必要です。

　認知の障害（失認）では、空間の把握や顔の区別が苦手になります。そのため道に迷ったり、身内の顔をみてもよく分からなくなったりします。

　失語、失行、失認のつぎに起きるのは、身体のパランスや飲み込み（嚥下）の障害です（アルツハイマー病第三期）。

　パランスが悪くなると、身体を横に傾けながら歩いたり、椅子からはみだして座ったりして、非常に転びやすくなります。つまり「転倒事故」は、アルツハイマー病の症状とも言えるわけで、どんなに気をつけても、完全に防ぎきれるものではありません。

　転倒予防の非常手段として、日中は車椅子に縛り、夜間はベッドに縛るという方法もあります。事実、日本の高齢者施設では、この「身体拘束」が広く行われています。しかし、縛られたお年寄りは心身ともに弱って寿命を縮めてしまいますから、人権上大きな問題になっています。

　転びやすくなってついに歩けなくなると、そのうち食事も受けつけなくなります。医学的には鼻から、あるいは直接、胃に栄養チューブをとおして延命させることはできます。が、医療費の高騰を背景として、また本人の意思によらない延命処置という論理的な問題もありますから、高齢社会を生きる日本人の死生観が問われています。