介護道楽・ケア三昧

｢一割前後がうつ状態？｣‥‥老いを受け入れる通通点に
朝日新聞2003年1月11日　こころ元気ですか高齢者編１０より

･‥マサカズさん(67)は、最近どうも元気がない。おっくうでけだるくて、面白いということがなくなった。テレビや新聞には興味がなくなり、外に出るもの人に来られるのも、うっとうしい。‥‥

　マサカズさん（67）は、最近どうも元気がない。おっくうでけだるくて、面白いということがなくなった。テレビや新聞には興味がなくなり、外に出るもの人に来られるのも、うっとうしい。

　夜は眠った気がせず、朝は「また一日が始まる」と思うと憂うつで、食事はうまくなく、便秘気味で、鍋をかぶったように頭が重い。希望はなく、役に立だない、迷惑をかけると悩み、昔のことをくよくよ考えて世の中が嫌になり、生きていても仕方がない、楽な死に方はないものかとつい考えてしまう。

こうした「うつ状態」の原因は大きく分けると三つある。

　まずつらい体験がもとで起こるもの（心因性）。
つぎに動脈硬化や膠原病など、身体の病気にともなうもの（身体因性）。
そして心因性でも身体因性でもない原因不明のもので、これが厳密な意味での「うつ病」だ。心因に比べて、うつ状態がかなり深刻な場合もうつ病とされる。

　治療は、心因性にはカウンセリングを、うつ病には抗うつ剤を、身体因性には身体病の治療を優先する。

　一般的に言うと、うつ状態はいずれ必ず治る。それまでをどう待つか、が問題だ。3ヶ月から半年は、しっかり療養する必要がある。励ましや気分転換は、無能感、厭世感を強めることがあるので、良くない。

　さて高齢期は、役割や健康、それまでの人間関係などをいや応なく失うことが多く、うつ状態の心因に満ちている。また動脈硬化や痴呆性疾患にともなう身体因性のうつ状態もあり、高齢者の高い自殺率を考えると無視できない。心因、身体因、うつ病が複雑に重なりあって、高齢者の少なくとも１０％前後がうつ状態とされる。３０％以上という報告もある。

　マサカズさんは、６５歳で会社を定年退職となり、老後は人生のバカンスと決めて、夫婦旅行や趣味ざんまいを楽しみにしていた。しかし退職してみると、無用の洛印を押されたような寂しさがあり、子供が巣立った後の老夫婦の会話は弾まず、半年前に狭心症の発作を経験してから、死の不安が募っていった。

　マサカズさんは、治るのに半年以上かかった。後に、老いを迎えるためには必要な時間だった、と診察室で穏やかに述懐した。高齢者のうつ状態は、彼のように心因を直視し、人生を統合していくための通過点である場合が多い。